熊野古道の起点近くに立つ聖地

稲葉根王子跡(いなばねおうじあと)は、世界遺産・熊野古道中辺路(なかへち)ルート沿いにある重要な史跡です。熊野九十九王子の中でも特に格式の高い「五体王子」の一つに数えられ、熊野本宮大社へと向かう参詣道の重要な節目となる場所でした。
稲葉根王子は、熊野参詣の道筋において、滝尻王子に次ぐ位置にあり、その重要性から「野中王子(のなかおうじ)」の別名も持っていました。かつて上皇や貴族たちが熊野三山へと向かう際、ここで本格的な熊野の聖域に入るとされ、非常に神聖な場所として位置づけられていました。
現在は、当時の建造物は残っていませんが、歴史を伝える石碑や案内板が建てられています。周辺は、清らかな富田川のほとりに広がり、古道の面影を感じさせる静かな環境です。かつて多くの人々が祈りを捧げ、旅の安全を願った場所に立つと、いにしえの熊野参詣の歴史と、人々の篤い信仰に思いを馳せることができます。