江戸時代の歌舞伎様式を伝える芝居小屋

嘉穂劇場は大正時代に建造され、その後昭和6年(1931年)に再建された芝居小屋で、その貴重な建築様式と歴史的価値から国の重要文化財に指定されています。

もともとは「中座」と呼ばれる芝居小屋で、明治末期以後に建てられた50もの芝居小屋のなかで最も規模が大きいものでした。筑豊地域における石炭産業の隆盛を背景に、芝居小屋は娯楽の場として地域の人々に愛されてきました。歌舞伎や演劇、浪曲など、様々な舞台芸術が上演され、多くの人々を楽しませてきました。炭鉱で働く人々にとっては、日々の労働の疲れを癒す大切な場所であったと言われています。

その後、炭鉱閉山と共に芝居小屋が次々と姿を消し、48座あった芝居小屋の中でただ一つ残ったのが、この嘉穂劇場です。
時代の変化を受けつつも90年もの間、形を変えることなく運営が継続された唯一の劇場となっています。

木造二階建ての建物は、伝統的な芝居小屋の様式を今に伝える貴重な遺構です。外観は重厚で風格があり、内部は舞台と客席が一体となった空間が広がっています。舞台正面には花道が2本設けられ、役者と観客の距離を縮める工夫が凝らされています。客席は日本の伝統的な畳敷きの「桝席」、「桟敷席」からなり、舞台には人力で動かす「廻り舞台」や「迫り(セリ)」が備えられています。
全世界で発生した新型コロナの影響により、嘉穂劇場は経営困難となり休館となりました。その後、飯塚市に贈与され、現在は再開へ向けて建物の改修や新たな活用のための調査・調整を行っています。