板谷波山の生家を改築した記念館

茨城県筑西市にある 板谷波山記念館は、近代陶芸史に残る巨匠・板谷波山(1872‑1963年)の足跡を辿ることのできる貴重な文化施設です。波山が生まれ育った下館の地に、昭和55年(1980年)に開設され、平成7年(1995年)には生家の改修や工房の移築を含め、記念公園として再整備されました。
記念館は、県指定文化財でもある波山の生家(江戸時代中期建築の木造平屋)を中心に構成されており、庭園内には亡き陶芸家の像も配された静かな空間です。また、東京・田端にあった工房が丸ごと移築され、「三方焚口倒焔式丸窯」やロクロ、石臼といった実際に波山が使用した道具類が、当時の姿のまま再現されています。
展示館では、文化勲章受章者として初となった波山自身の作品はもちろん、下絵や釉薬の調合表、制作途上の陶片など、制作の工程を垣間見せる資料が充実しています。また、掛軸や素描、自筆による道具類など、ここでしか出会えない逸品も展示され、波山の美学と職人技を五感で感じることができます。
館内には波山の作品だけでなく、彼と関わりの深かった方々の遺品や資料も展示されており、陶芸家としての側面だけでなく「人間・板谷波山」としての温かい人となりも伝わってきます。筑西市が誇る文化の宝を、記念館・公園・展示を通してじっくり巡る時間は、静かな感動と豊かな知見を与えてくれます。